【ブックメーカー】清崎民喜コラム:レスターシティ優勝5001倍の衝撃!スポーツブック史上最大の番狂わせとブックメーカー発表オッズの裏側

レスターシティ優勝写真

ブックメーカー史上最大の番狂わせが起きた。イギリスのサッカーのプレミアリーグで英ブックメーカーが最大5001倍のオッズを付けていた“アンダードッグ”のレスターシティが、2位のトッテナムが現地5月2日の試合のチェルシー戦で2-2で引き分け、プレミアリーグ初優勝を決めたのだ。

レスターファンは歴史的勝利に歓喜の雄たけびをあげ、世界中のサッカーファンは大きな衝撃を受けた。その一方で、大慌てなのはブックメーカーだった。イギリスの老舗ブックメーカーで日本でもお馴染みの「William Hill(ウィリアムヒル)」は5001倍のレスターシティ優勝オッズに25口のベットがあったとし、また「Ladbrokes(ラドブロークス)」は47口のベットがあったことを明らかにしたのだ。

ウィリアムヒル路面店

米スポーツ専門チャンネル「ESPN」によると、イギリス王手ブックメーカー3社のレスターシティ優勝による総損出額は、1140万ドル(約12億1980万円)に昇ると報じた。5001倍のチームが勝つことは私が知りうる限りブックメーカー史上初の出来事であり、ブックメーカー各社は歓喜のファンとは対照的に面目丸つぶれ。ある種の“事件”となってしまったのだ。

サッカーにあまり詳しくない方のために、レスターシティというチームを簡単に紹介しておこう。チームの創設が1884年と132年を誇る歴史のあるチームで、これまでイングランドのトップリーグ(現・プレミアリーグ、1部)には48シーズン在籍し、過去の最高成績は1928年-1929年シーズンの2位が最高成績のチームだ。今シーズンから日本代表のフォワード・岡崎慎司が移籍したことで日本のメディアからもその名前が知らされた。

岡崎慎司

しかしながら、チームとしてはいわゆる“弱小チーム”と言わざるを得ない。レスターシティは昨シーズン長らく最下位にとどまり、最後に粘って14位と何とかプレミア残留を果たした。2007年-2008年シーズンには2部リーグで22位となり、翌シーズンはチーム史上初となる3部リーグで戦うことを余儀なくされた。2013年-2014年シーズンで2部優勝を果たし、再びプレミアリーグに復帰を果たした。レスターシティとはそんなチームだ。

ブックメーカー「ウィリアムヒル」のレスターシティ優勝オッズの変動

そんな弱小チームのレスターシティにブックメーカーが付けた今シーズン(2015年-2016年シーズン)のプレミアリーグ優勝オッズは最大5001倍(5000/1)だった。“最大”と付けたのは、ブックメーカーのオッズは株価のようにチームの成績などに応じて日々変化していくからだ(上記グラフ参照)。日本の競馬や競輪とは違って、ブックメーカーはベットした時点のオッズが賭けた人のオッズとして確定するいわゆる「ブックメーカー方式」のオッズを採用している。もし、ブックメーカーも日本の競馬のように投票締め切り後のオッズが確定オッズとなっていれば、4月25日(レスターシティが優勝を決める前節終了後)のWilliam Hill(ウィリアムヒル)の優勝オッズは1.17倍となっていた。5001倍から1.17倍まで約-4274倍も優勝オッズが変動したのだ。

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ブックメーカーはできる限り多くのベット数とベット額、そして多様なチームや選手へのベットをお客から受け付けたいので、今回のような5001倍という破格のオッズをオッズメーカー(ブックメーカーが抱えるオッズを決める専門家)は弾き出した。そうでもしないと賭けがレスターシティに集まらないからだ。このことが今回のレスターシティへの結果的な過小評価となってしまったわけで、これが5001倍のオッズが勝ったことはブックメーカー始まって以来、初の快挙という皮肉な結果を生み出した。

5001倍(5000/1)のオッズを的中させた女性ファン

ブックメーカーのオモシロ高配当オッズ

5001倍というオッズがいかにすごいのか?多くの人たちの関心はそちらの方に向けられているだろう。そこで、過去のブックメーカーが発表した高額配当のオッズを紹介しておこう。これを見れば、レスターシティの優勝の衝撃がいかにすごいものかがわかるだろう。

その前にブックメーカー(スポーツブック)と言えば、スポーツの勝敗についてのみオッズを発表しているだけだと思っていらっしゃる方も多いと思うが、実はスポーツ以外にも、政治、経済、芸能、天気などなどあらゆる事柄に対してオッズを発表している。これらのオッズのことを「ノベルティオッズ」(Novelty Odds)と言うのだが、このノベルティオッズに思わず笑ってしまうオッズが多い。イギリス系のブックメーカー「Paddy Power」(パディーパワー)が発表したオッズを中心に少し見てみよう。

エルビス・プレスリー&ネッシー

【主な高額配当オッズ&ノベルティオッズ】
・ネッシーが今年発見される(501倍)
・ウィリアム王子とキャサリン妃の間に今年3つ子が生まれる(501倍)
・オバマ大統領が「月面着陸」が嘘だったことを認める(501倍)
・ジンバブエ大統領のロバート・ムガベ氏がノーベル平和賞を受賞する(1001倍)
・エルビス・プレスリーが生きていることが発見される(2001倍)
・スーパーラグビー初参戦のサンウルブズが開幕7連敗後の逆転優勝(2501倍)
・英ヒップホップのトゥリーサ・コントスタヴロスが次の英首相になる(4001倍)
<過去にあった“変わりネタ”オッズ>
・1970年1月までに人類が地球以外の惑星上を歩く(1001倍)
・エルビス・プレスリーがUFOに乗ってネッシーに衝突する(2001万倍)
・「世界の終わり」が来る(オッズ不明)

あのネッシーが発見されるというオッズが501倍、1977年に死亡したとされるエルビス・プレスリーが実は生きていたとなれば2001倍の高額配当となる。スポーツでの高額配当オッズでいえば、今季から南半球最高峰のラグビーリーグ「スーパーラグビー」に参戦を果たした日本代表を中心としたサンウルブズが、開幕から7連敗を喫した後の優勝オッズが2501倍であったことが記憶に新しい。これらを見る限り、それ以上にレスターシティの優勝は“あり得ない”と予想されていたことが5001倍のオッズから考えられる。

サンウルブズ

また、過去にブックメーカーが発表した変わりネタのオッズでは、1964年にWilliam Hill(ウィリアムヒル)が発表したブックメーカー史上初の「スペースオッズ(宇宙に関するオッズ)」となった「人類が地球以外の惑星上を歩く」というオッズは、アメリカのアポロ11号計画で1969年7月20日にニール・アームストロング氏らが成功し、当時1001倍のオッズに10ポンドをベットした当選者が出て話題となった。また、この月面着陸が嘘であったことをアメリカのバラク・オバマ大統領が認めるというオッズが501倍となっているのも面白いところだ。

ニール・アームストロングの月面着陸

レスターシティのプレミアリーグ優勝オッズを超えるオッズがブックメーカーから発表されたこともある。「エルビス・プレスリーがUFOに乗ってネッシーに衝突する」というオッズは2001万倍と、私が知りうる限り最も高額配当オッズもかつて存在した。1000円賭けていれば、200億円を超える払い戻しとなる。また、オーストラリアのブックメーカー「Sportsbet.com」はかつて「世界がどのようにして終わるのか?」という“End of the World Betting”のオッズを発表していた。氷河期の到来や不治の病の流行などが選択肢としてあり、中にはエイリアンの侵入といった選択肢もあったようだ。

しかし、「もし、不幸にもこのオッズで的中者が現れたとしたら、払い戻しはどうするのか?」という疑問が私の中に浮上した。すかさず、このオッズに関して直接「Sportsbet.com」に問い合わせたところ、「現在は、このオッズを発表していないし、今後もアップデートすることはないでしょう。もし、“世界の終わり”が本当に起こったとしたら、私たちは的中者に配当を出すことはできませんから」との回答を得た。余談までに書き留めておきたい。

ブックメーカーは常に人々の興味を引き付けておきたいのだ。そして、オッズの上げ下げやオッズの対象を多岐に渡らせることで、一人でも多くの人々に賭けに参加してもらいたいのだ。

「次のレスターシティになるのは誰なのか?」

今後のブックメーカー発表のオッズにも注目していきたい。

<清崎民喜>
スポーツライター・ブックメーカーに詳しい専門家
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