ウサイン・ボルト(ジャマイカ)に始まり、ウサイン・ボルトで終わる―。
17日に行われた男子二百㍍決勝で、ボルトはコーナーを回るところで先頭に踊り出ると、ゴール前ではある意味でトレードマークにもなっている力を緩めたものの、そのままダントツでゴールテープを切り、世界記録更新はならなかったものの、19秒66で世界陸上史上初の同種目3連覇を果たしました。
やっぱり強かった―。勝つことは誰もがわかっていましたが、問題はどう勝つのか?だったように思います。日本語対応のブックメーカー「William Hill(ウィリアムヒル)」の優勝オッズは1.05倍でしたもんね。下記画像をクリックすればレースの模様をご覧いただけます。細かな説明はもはや必要ないでしょう。
ボルトはレース後に、Reuters(ロイター通信)に対して「100メートルはファンのために走ったが、自分にとっては200メートルの王座を守ることの方がより重要だった。ストレートに入ったときに疲れを覚え、足が重くなった。コーチからも無理するなと言われていたので、少し力を緩めた」と明かしたとのことです。
そして、大会最終日の18日に行われた四百㍍リレーでも、ボルト率いるジャマイカが37秒36で3大会連続の金メダルを獲得しました。ジャスティン・ガトリン(アメリカ)がアンカーを務めるアメリカとの一騎打ちになりましたが、最後はアンカーのボルトがガトリンを引き離して勝敗は決しました。
10秒01の日本歴代2位の記録を持つ桐生祥秀が率いる日本は、予選をシーズンベストとなる38秒23の2組2位で決勝進出を決めましたが、決勝では桐生と第2走の藤光謙司のバトンパスの距離が詰まるなど、流れに乗れずに38秒39の6位(3位のイギリスが失格して繰り上げ)でモスクワでの戦いを締めくくりました。3位のカナダが37秒92であることを考えると、日本がメダルを獲得するには37秒台を出さないと勝負できないことが実感できたレースだったように思います。高校生の桐生を筆頭に、ケガで出場できなかった山縣亮太とアンカーを務めた飯塚翔太の大学生コンビなど若手の台頭は、日本スプリント界を世界レベルへとけん引してくれるに違いありません。期待しましょう!
四百㍍リレー決勝のレースの模様は、下記画像をクリックすればご覧いただけます。世界陸上を締めくくるふさわしいレースだったと思います。
ボルトは百㍍、二百㍍、四百㍍リレーで「3冠」を達成し、世界陸上通算8個の金メダルを獲得しました。金メダル8個は、アメリカのカール・ルイス、マイケル・ジョンソン、アリソン・フェリックスに並び世界最多タイの記録です。また、通算のメダル獲得数では大阪大会(2007年)で銀メダルを2個獲得していますので、ボルトが通算10個のメダルで世界トップに立ちました。ボルトは間違えなく世界のレジェンドになりました。
余談ですが、世界のレジェンド級の選手が現れると、ブックメーカーもいろいろとオッズを付けたがります。イギリスのブックメーカーである「William Hill(ウィリアムヒル)」は、ロンドン五輪で五千㍍、一万㍍で優勝し、今回の世界陸上モスクワでも同2種目で「2冠」を達成したモハメド・ファラー(イギリス)との「夢のレジェンド対決」のスペシャルオッズを発表しています。それは「600㍍と800㍍で二人が勝負したら、どちらが勝つのか?」というものです。600㍍はファラー:1.57倍、ボルト2.25倍、800㍍ではファラー:1.20倍、ボルト:4.33倍のオッズが付いています(19日午前11時現在)。
ともにファラーが勝つとの予想となっていますが、“但し書き”があります。「このレースが今年の12月31日までに実現すれば有効」と。短距離と長距離の世界王者が中距離で戦うとどんな戦いになるのか?私も大変興味があり、見てみたいものです。ブックメーカーがこのような“スポーツ”もオッズの対象にしてしまう辺りが、スポーツに対する「遊び心」を忘れないヨーロッパ的な文化を感じますね。私たちのスポーツを観て楽しむ可能性が広がります。
話を戻しましょう。長距離の花形種目である17日の男子マラソンでは、日本選手が5人出場し、中本健太郎が日本人トップとなる2時間10分50秒の5位入賞を果たしました。中本はレース後に「昨年のロンドン五輪での6位より順位を一つ上げることができた。(結果には)満足しています」と、世界陸上8大会連続で日本勢入賞となったレースを振り返っていました。
優勝したのは、ロンドン五輪で金メダルを獲得したスティーブン・キプロティチ(ルワンダ)で、その他の日本勢は藤原正和が14位、前田和浩が17位、川内優輝が18位、堀端宏行は途中棄権しました。日本勢が二人、三人と当たり前のように入賞し、アフリカ勢対抗してメダル争いをするには「2時間6分台で走れるようにすること」とマラソン解説でお馴染みの瀬古利彦さんはおっしゃっていました。今回の優勝タイムは2時間9分台でしたが、いかに余裕を持ってレースが出来るかということが勝つためには重要なんですね
18日に行われた女子やり投げ決勝は、クリスティーナ・オーバークフォル(ドイツ)が69㍍05で悲願の金メダルを獲得しました。地元ロシアのマリア・アバクモワは65㍍09で銅メダルに終わりました。日本投てき陣で唯一の女子選手として出場した海老原有希は、16日の予選で59㍍80を投げましたが、決勝進出は叶いませんでした。
世界陸上モスクワは18日をもって閉幕しました。日本は、女子マラソンで福士加代子が3位に入るなどメダル1、入賞7でした。メダル獲得総数ではアメリカが25個(金6、銀14、銅5)でトップ、開催国のロシアは金メダル数で最多の7個を獲得しました。
世界陸上モスクワの余韻を味わいたい方々、下記をクリックすると写真スライドショーがご覧いただけます。(外部リンク:Reuters)
個人的に印象に残った選手としては、女子百㍍、二百㍍で22年ぶりとなる「2冠」を達成したシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)、男子走り高跳びで2㍍41㌢の大会新記録をマークしたボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)、男子三段跳びでは史上3人目となる18㍍越えとなる18㍍04で優勝したテディ・タンゴ(フランス)、女子ハンマー投げで大会新記録となる78㍍80で2連覇を果たしたタチアナ・ルイセンコ(ロシア)でしょう。「これぞ世界レベル!」を見せつけられました。
世界陸上のあとは、世界最高峰の陸上競技といわれる「ダイヤモンドリーグ」が再開します。世界陸上で世界を沸かせたトップアスリートが世界中を転戦しながら年間王者を競います。第7戦のバーミンガム大会(6月30日)では、男子百㍍に桐生が招待された大会ですね。2013年のシーズンは5月から始まっており、22日(現地時間)に第12戦のストックホルム大会、29日(同)にはボルトも参戦を予定している第13戦のチューリッヒ大会、9月6日(同)に最終戦のブリュッセル大会が行われます。世界陸上で見た超人選手たちに「ダイヤモンドリーグ」で再会すると、また違った感動が味わえると思います。
今のところ「ダイヤモンドリーグ」はオッズの対象にはなっていませんが、世界陸上で紹介したブックメーカー「888sport」「William Hill(ウィリアムヒル)」などのホームページ上の“Athletics”や“陸上競技”をチェックすると、その大会がオッズ対象になっているかを確認できます。
新たな視点を加えて、スポーツを観て楽しむ自分の可能性をもう少し広げてみるのもいいのかもしれません。