カジノ法案再提出―。カジノ法案とは通称で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(IR推進法案)」が正式な法案の名称となる。いつしか“カジノ”という言葉だけが独り歩きをして、カジノ法案という名前が一般化しているようだ。
4月28日夕方、昨年11月に衆議院解散に伴い廃案となった同法案を国際観光産業振興議員連盟(IR議連)が再提出した。期待されながらなかなか前進しなかった同法案が国会に提出されたことで、再びカジノ法案が土俵にのっかることになった。
法案提出直後にIR議連幹事長の岩屋毅衆議院議員は「カジノIRジャパン」のインタビュー取材に以下のように答えていた。
「2020年には東京オリンピック・パラリンピックが行われるため、その時は瞬間最大風速も吹くと思いますが、これを持続的、永続的なものにしていかなければいけません。そのためにIRという魅力ある、複合的な観光施設というものを国内に認めていくことによって、日本の観光産業をさらに振興させていこう、これがこの法案の最大の目的なんですね」
「IRでは一部としてカジノという施設が含まれることになりますが、これは我々の考えでは全施設面積の3%から5%くらいを想定しております。世界ではいま約130ヶ国で合法化され、各国でしっかりと管理されている仕組みがあるわけです。こういった世界基準の高規格なエンターテイメントを日本に取り入れ、しかも日本独自の特色を生かした施設を作ることができれば、私は日本における観光産業振興として十分に誘客効果を発揮してくれるものと考えています」
つまり、カジノを含むIRを導入することで観光客を日本に呼び込み、日本にお金を落としてもらう。2020年の東京五輪まではインフラ整備などで日本経済は活発化するが、東京五輪以降には必ず不況に陥ってしまうので、その時の景気活発化策の大きなエンジンになるというのが日本へのIR誘致の目的なのだ。日本が観光立国として新たな道を切り開こうとしているのだ。
今のところ大阪や横浜がIR誘致の有力候補地となっており、その他いくつかの地域がIR誘致に名乗りを挙げている。IRを誘致することで地元経済の活性化、地域の活性化などにつなげたいのが各地域の思惑だろう。横浜市がIRを誘致した場合、年間の経済効果は4144億円と試算しており、日本国内に3か所程度のIRができた場合の経済効果は最大で7兆7000億円との試算もあるほどだ。少なくとも数兆円の経済効果がカジノ誘致によって日本にもたらされるのだ。
外国人観光客の増加やインフラ整備、経済効果などプラスの側面は大きいものがあるが、このカジノ法案がなかなか進まないのは、マイナスの側面に対して依然として慎重論があることだ。
新聞各紙やテレビなどが報じるカジノ法案関連のニュース記事を見てみると、マイナスの側面として最も多く問題として指摘されているのが「ギャンブル依存症の増加」と「犯罪が増える」の2本柱だ。
ギャンブル依存症の問題については、カジノ法案の中にカジノの収益の一部を依存症対策に充てることを明言しており、その対策を積極的に講じていくことを断言している。それよりも根本的な問題として、ギャンブル依存症というものをこれまで誘発してきたものは何なのかを考えるべきではないだろうか?
日本国内には536万人、日本の成人人口の5.6%がギャンブル依存症の“疑い”があるという報告を2014年11月に厚生労働省が発表した。要するに20人に1人がギャンブルにはまっているというデータだ。この統計的な数字についても疑問を感じざるを得ないが、問題はこのギャンブル依存症の原因となったのがカジノではないということだ。
日本は世界有数、いや世界一のギャンブル大国だ。競馬に競輪、競艇、オートレースのスポーツ系のギャンブルに、パチンコやスロットの遊技系のギャンブル、そして宝くじなどの富くじ系も実はギャンブルの一種だ。また、インターネットを通じて海外政府のライセンスを得て合法的に運営されているブックメーカーやオンラインカジノも最近見られる。もし、ギャンブル依存症を問題としてとらえ、その解決に真剣に取り組むのであれば、その原因を作ってきたこれらのギャンブルにもベクトルが向かうべきだと考える。なぜ、わずかIR施設の5%にも満たないカジノにだけその責任を押し付けるのかが疑問を感じざるを得ない。
犯罪が増加するのではないかという意見も多いようだ。しかしながら、カジノが出来ることでなぜ犯罪が増えるのかの論点がよくわからない。カジノ先進国であるイギリスやアメリカなどの調査機関からは、カジノ設置と犯罪発生についての因果関係は認められないとの報告がなされている。当然、観光客など人がたくさん集まる場所ができれば、それが原因で軽犯罪が起きる可能性は人が集まらない場所に比べれば高まるのは当たり前なのだ。これは決してカジノだからというわけでなく、多くのリゾート地、観光地では織り込み済みの話なのではないだろうか。
「カジノ=悪」というイメージが先行しているが、決してそうではなく、法律や環境の整備を厳密に、かつ厳正に行うことでリスクは最小限にできるのだ。カジノ後発国として「先進国から多くの事例を学ぶことが出来る」という最大のメリットを日本は駆使できる。明治時代の文明開化の時期とまではいわないが、日本の素晴らしさは他国のよい部分を取り入れながら、独自のものを作ることが出来る点ではないだろうか。
2015年の通常国会も後半戦に突入し、現時点では法案の付託先がまだ決定していないのが現状である(5月11日現在。昨年は内閣委員会で審議された)。まずは、カジノ法案の付託先を、状況を見ながら決定し、延長されるであろう本国会で審議、そして法案を通すことでIR導入に本腰を入れて取り組んで欲しい。政府としては安全保障関連法案、労働法制など大型法案の審議を優先するだろうが、安倍晋三総理も「夏までには」とカジノ法案成立にも意欲を見せている。
カジノ法案の審議については厳しい日程となることが予想されるが、すべての人たちが納得する、賛成する法案は存在しない。賛否両論のなかで、メリットを最大限に、デメリットを最小限にすることこそ国会議員の腕の見せ所なのではないだろうか。
今後は、オンラインカジノやスポーツブックに関する法整備も必要となってくるだろう。現在、アメリカではNBAのアダム・シルバーコミッショナーが旗振り役になって、アメリカ全土を巻き込んでのスポーツベッティング合法化に向けてスポーツ界、産業界、政界などとの調整に本腰を入れている。日本にもいずれはインターネットによるブックメーカーの在り方も議論される日が来るであろう。
<関連記事>NBAシルバーコミッショナーが欧州大手ブックメーカーと接触か!?
カジノもスポーツも人々の一つの娯楽として楽しむことが出来る環境を整備していくことも、日本においても近い将来求められるだろう。