アメリカと言えば、ラスベガス・カジノ!そう連想される方も多いだろう。そして、スポーツ大国!と続き、お金持ちだ!と続くのがある意味で定石となっている。
実際、アメリカに行けばわかることだが、アメリカはギャンブル大国とは言えないことに気付く。ネバダ州にあるラスベガスが飛び抜けて“ギャンブル感”を醸し出しているが、実はギャンブルに関しては一部の州以外は合法化されていないのが現状なのだ。
スポーツはMLBをはじめ、NFL、NBA、そしてNHLといわゆる「4大プロスポーツ」があり、カレッジフットボールやカレッジバスケットボールもこの4大スポーツの人気を凌ぐほどの盛り上がりを見せる。まさしく世界一のスポーツ大国といえるだろう。
アメリカのギャンブルとスポーツ―。表立ってはいないが、この両者は切っても切れない関係に実はある。そう、スポーツの勝敗などにお金を賭ける“スポーツベッティング”が広くアメリカ全土のスポーツファンの間で流行しているのだ。主にオンライン上で気軽に楽しまれており、オッズを提供して賭けを募集する側(ハウス、胴元)のことをブックメーカー(アメリカでは“スポーツブック”と呼ばれる)という。多くのブックメーカーは拠点を置く国のライセンスを受けて、合法的に運営されているのが一般的だ。
アメリカの現状としては、スポーツベッティングはネバダ州など一部を除いて合法化されていない。さらに、ネバダ州ラスベガスにおいても2001年にジョン・マケイン議員が先導して法制化された「アマチュアスポーツへのベッティング禁止」があり、世界中から集まるお客に対してラスベガスですら「オリンピック」へのスポーツベッティングが出来なかった(注:カレッジフットボールとカレッジバスケットボールはOKだった。リオ五輪に向けて現在、オリンピックへのベッティング解禁へ動いている)。
しかし、である。アメリカ全土で実際に広く市民の間で行われているのだ。そこで、スポーツベッティングに関する法整備をしようと旗振り役となったのが、NBAのコミッショナーであるアダム・シルバーである。
昨年(2014年)9月に行われた定例会見の席で、シルバーコミッショナーは「スポーツベッティングの合法化は避けられなくなるだろう」と発言。ここから、NBAを中心としてスポーツベッティングの法整備に向けて動き出すことになる。
まずは、NBAのオーナーたちのスポーツベッティング容認を取り付けた。当初は、ダラス・マーベリックの名物オーナーであるマーク・キューバン氏が「シルバーコミッショナーの考え方を100%支持する」と発言し、サポートを宣言したがあくまでオーナーの一人の考えに過ぎなかった。
今月に入ってオーナー側は総意として「シルバー支持」を表明した。スポーツベッティング合法化へはあまり積極的ではなかったロサンゼルス・レーカーズのプレシデントであるジニー・バスも「もし、私たちのファンがすでに(スポーツベッティングを)やっているなら、合法化への道筋を主流にのせるべきだし、スポーツベッティングを合法化させるべきである」とコメントし、スポーツベッティング容認へと舵を切ったのだ。
NBA選手会(NBPA)のミシェル・ロバーツCEOも選手会の立場として「アメリカ国内におけるスポーツベッティングについてNBPAとしてもっと幅広く合法化へとオープンにしていくだろう」と米スポーツ専門チャンネル「ESPN」のインタビューに答えたのだ。また、ロバーツCEOはスポーツベッティングの法整備を進めることで、NBAへの新たな収入源を模索できるとの期待を示した。
実は、アメリカでは不法なギャンブルによって年間4000億ドルとも言われるお金が動いていると試算されています。このような莫大なお金を、スポーツベッティングを合法化することで取り締まり、お金の流れを明確にすることで逼迫している国家や州の財政を潤し、またスポーツ界発展のための資金源にできるという考え方がシルバーコミッショナーにはあるのだ。
実際にプレーしているプロ選手たちに対して「スポーツベッティングの合法化」について
ESPNが調査したところによると、アメリカのプロスポーツ選手の63%がスポーツベッティングは広く合法化されるべきだと考えていることがわかった。さらに、プロスポーツ選手のうち約6割がギャンブルをこれまでに行ったことがあり、約4割がスポーツベッティングをしたことがあると答えたのだ。
日本ではまだブックメーカー自体がそれほど知られていないので、一部の人々にしかスポーツベッティングを行っていないが、アメリカではスポーツの楽しみ方の一つとして生活の一部となっている。スポーツベッティングの祖国であり、多くのブックメーカーが拠点を置くイギリスを中心としたヨーロッパでは、むしろ文化としてスポーツベッティングが合法的に行われているのは当たり前だ。
スポーツ大国であり、ギャンブルのメッカでもあるアメリカにスポーツベッティングの波はすでにきており、あとは法整備がどれだけ早く整備されるかの問題だけになってきている。そのうちこの余波が日本に来ることは間違いないが、こちらは「カジノ推進法案」の進捗を見守りながら少し遅れてやってくるであろう。
さて、NBAのスポーツベッティング合法化について話を戻そう。NBA側が一枚岩になったところでも、法律を動かせるのは政治である。シルバーコミッショナーは、ギャンブル合法化に前向きなニュージャージー州知事のクリス・クリスティとタッグを結成。スポーツ界と政界が団結してスポーツベッティングの法整備に取り組むことで合意したのだ。
今後、シルバーコミッショナーはNBAだけでなく、MLBやNHL、NFLといった4大プロスポーツを中心にその輪を広げていくつもりだ。2015年からMLBの新コミッショナーに就任したロバート・マンフレッドコミッショナーは、スポーツベッティング合法化へ前向きだ。「我々MLBとして(スポーツベッティングに関して)どのような立ち位置を取るのかを各チームのオーナーとコミュニケーションを取っていくことが重要である」と述べ、NBAと同じような流れで関係各所への調整に入ることを示した。
日本にも近い将来「スポーツベッティング」に関する波が押し寄せてくることは間違いないだろう。少しずつブックメーカーが認知され、広がりつつある日本においてもスポーツベッティングに関する法整備を早い段階から検討しておく必要があると考える。