最近のもっぱらのスポーツの話題と言えば、どうしてもプロスポーツ選手のギャンブルについてと言わざるを得ない。日本プロ野球に激震が走った野球賭博の問題で、野球賭博に関与していた福田聡志投手、笠原将生投手、松本竜也投手の3選手が今月、巨人から契約を解除された。プロ野球ファンには記憶している方もいるかと思うが、1969年に発覚した「黒い霧事件」以来となる野球協約に抵触する有害行為が明るみに出てしまった。
巨人が独自に行った調査によると、どうやら野球賭博以外にもギャンブル行為が行われていたようだ。以下、日刊スポーツの報道(2015年11月10日付)を引用する。
賭けマージャンは3選手を含む約10選手が行っていた。試合のない日の練習後など、雀荘に足しげく通い、3人で行う独自ルールで金銭を賭けた。メンバーでレートは変わるが、1万円以上の勝ち負けがあった。2軍の練習後、ジャイアンツ球場のロッカールーム内で賭けトランプも行われていた。「大富豪」「ポーカー」などのゲームに1回1万円を賭けた。トランプは11選手が行為を認めた(日刊スポーツ電子版2015年11月10日付)。
トランプや麻雀などおそらくはほんの遊び程度、気分転換で行っていたのであろうとは推測するが、3選手の野球賭博によって契約解除などの厳罰にこそならなかったものの口頭注意などが球団から該当選手には行われるなど、野球界への「賭け事」の蔓延が浮き彫りとなってしまった。
今回、巨人の3投手が契約解除という重い処分を受けたのは、彼らが日本の法律ではなくプロ野球の法律ともいえる「野球協約」の第180条に抵触したからに他ならない。
野球協約第180条(賭博行為の禁止および暴力団員等との交際禁止=抜粋)
(1)選手、監督、コーチ、または球団、この組織の役職員その他この組織に属する個人が、次の行為をした場合、コミッショナーは、該当する者を1年間の失格処分、または無期の失格処分とする。
<1>野球賭博常習者と交際し、または行動を共にし、これらの者との間で、金品の授受、供応、その他一切の利益を収受し、もしくは供与し、要求し、申し込みまたは約束すること。
<2>所属球団が直接関与しない試合、または出場しない試合について賭けをすること。
この180条すなわち、野球の「八百長」を防ぐことが大前提としてある。例えば、今回のように巨人の選手が野球賭博を常習的に行っている人と付き合い、選手が「八百長」を持ちかけられたり、もしくは選手自体が野球賭博を行えば「八百長」へとつながりかねない。つまり、プロ選手である以上お客様(ファン)に正当なサービスを提供することが必要であり、それを阻害する要因となりうるものはプロ野球全体として「アウト」にしているわけだ。
日本のプロ野球に続いて、10月には韓国のプロ野球でも選手の賭博行為で激震が走った。とはいえ、韓国のプロ野球の一件と、今回のプロ野球巨人の野球賭博問題は異なるものである。
ヤクルトのクローザーとしても活躍したプロ野球サムスン・ライオンズの林昌勇(イム・チャンヨン)投手ら3選手が、昨年のオフシーズンにマカオでカジノに興じ、ある選手の損失が7億ウォン(約7400万円)、他の選手は1億5千万ウォン(約1600万円)勝ったと韓国のテレビ局が報じたのだ。ちょうど世界野球プレミア12の前だったために、イム投手らは韓国代表から除外されることになった。
そして今月24日には、ソウル中央地検強行部がイム投手を被疑者として呼び出して賭博の疑いで事情聴取し、本人は賭博の事実を認めていると朝鮮日報が報じた。検察が動いているということは、韓国の法律に触れているということになります。
おい、ちょっと待て!なんで、カジノ合法のマカオでカジノをしたことが罪になるのか?
とツッコミを入れたいところでしょう。
しかしながら、ここでは日本と韓国の法律の違いがあるようです。
日本の法律の場合は、その行為が日本で行われていれば法律の効力が及ぶのですが、韓国の法律の場合は国内外に問わずに韓国国籍であれば例え海外であろうとその効力が及ぶのだ。私たち日本人がラスベガスやマカオに行って、カジノに興じてももちろん違法にはなりません。しかし、韓国の場合は例え海外でその行為が合法であっても、韓国でNGなものはNGとして「罪」に問われてしまうのだ。
韓国のプロ野球から日本のプロ野球へと活躍の舞台を移した選手にも「海外賭博疑惑」が広がっているという。東スポが阪神のストッパーとして活躍し、来季の去就が注目されている呉昇桓(オ・スンファン)投手が疑惑を持たれていると報じたのだ。韓国の刑法246条1項は「賭博をした人は1000万ウオン(約107万円)以下の罰金に処する。しかし、一時的な娯楽程度なら例外とする」となっており、もし疑惑が本当であれば阪神タイガースや移籍先にもなる可能性のあるメジャー球団はとんだ腫物がやってくることにもなりかねない。
その他、海外ではスポーツにまつわるギャンブルはどのなのか?
スポーツベッティングの発祥の地・イギリスを中心としたヨーロッパでは、ブックメーカーなどのスポーツギャンブルは一つの文化として市民の生活に溶け込んでおり、国としてライセンスを発給して営業許可を与えるほどギャンブルに対して寛容だ。
また、昨年からスポーツベッティングの合法化機運が高まっているスポーツ先進国のアメリカでも、一部の州を除いてスポーツベッティングはできないことになっているが、NBAのアダム・シルバーコミッショナーも広くスポーツファンの間でスポーツベッティングが行われている事実を認め「スポーツベッティングの合法化は避けられない」とコメントするほど、国民の間ではスポーツギャンブルは一つの娯楽として楽しまれているのだ。
じゃあ、プロスポーツ選手もスポーツベッティングに興じてもいいんじゃないか?となってしまいそうだが、そこはなかなか難しい部分もある。大リーグでプレーし、また監督をしながら自分のチームの試合に賭けをしていたピート・ローズは、メジャーリーグから追放された。このことがアメリカでスポーツベッティングを全国的に合法化できない一つの要因になっている気がしてならないが。
とはいえ、NBAのスーパースターであるマイケル・ジョーダンも無類のギャンブル好きで有名であり、ボクシング史上最も稼いでいるフロイド・メイウェザーはカジノでNFLの試合などに大金を賭けていることをツイッターなどで公言している。そのメイウェザーと「世紀の一戦」を行ったマニー・パッキャオは、ブックメーカー「VitalBet」のオーナーとして名を連ねている。大物スーパースターでもスポーツベッティングに関わっているのが現状だ。
今回のプロ野球の「賭博騒動」で日本や韓国も、スポーツベッティングに関する考え方を変えていく必要があるのではないだろうか。世界基準のようなものが「スポーツベッティング」を含めたカジノなどのギャンブルにはないので、何が正しく、何が正しくないのかが非常にあいまいなのが現状ではなかろうか。
スポーツの楽しみ方の一つとして、スポーツベッティングがあることはファンにとってはうれしいことなのかもしれないが、スポーツを見せる側であるプロスポーツ選手たちがどう関わっていくのかは今後の大きな議論となりそうだ。