プロゴルファーの世界No.1決定戦「全米プロゴルフ選手権」が日本時間の11日早朝に最終日を終え、ローリー・マキロイ(イギリス)が、追いすがる2位のフィル・ミケルソンや3位のリッキー・ファウラー両アメリカ勢をかわして16アンダーで優勝した。マキロイは先月行われた全英オープンで初優勝を果たしており、今シーズンメジャー2勝目を挙げ、“マキロイ時代”の到来を告げる強さを世界中のゴルフファンに見せつけた。
私も彼らの戦いを胸躍らせながら中継で見ていたが、最終日前日(日本時間10日)に発表されたイギリス系のブックメーカー(スポーツブック)「bet365」が、全米プロゴルフ選手権の優勝オッズを以下のように発表していた。
【全米プロゴルフ選手権優勝オッズ上位3選手】
① ローリー・マキロイ:1.61倍(13アンダー、首位)
② リッキー・ファウラー:6.50倍(11アンダー、3位)
③ フィル・ミケルソン:11.00倍(10アンダー、4位タイ)
※オッズは、10日午後3時現在。(カッコ)内は3日目終了時点の成績
この絶妙なオッズに思わずうなった。オッズ通りに優勝が決まり、ミケルソンとファウラーが優勝争いに大きく絡んだ展開となった。ブックメーカーにはオッズをつける目利きのプロがいて、彼らがまずはオッズを発表し、それからお客がどの選手に賭けるかの量に応じてオッズが変化していく。日本の競馬などとは違い、そのお客が賭けた時点でのオッズが確定するというのがブックメーカーの面白いところだ。
スポーツは違うが、サッカーのワールドカップなど数多く取材し、サッカーに関する著書を数多く書いているスポーツライターの杉山茂樹氏は、自身の記事の中でブックメーカーに関して次のように述べている。
“ブックメーカーのオッズは、世の中で最もフェアな予想だと思っている。客観を尽くした予想なので、信頼度は高い。世の中のスタンダードを知りたいとき、僕は迷わずそれぞれのホームページを覗く。W杯の抽選会が終わって間もないいまは、まさにそのタイミングだ” (「C組は実は「死の組」。ブックメーカー4社の予想オッズを比較することで浮かび上がる事実」より抜粋)
全く同感だ。日本のマスコミが伝える情報は、世界スタンダードとは言い難い。その多くは日本びいきと化した情報となっている。「日本はグループリーグ突破できる!」と多くの日本のメディアが書きなぐった。その結果は、ご承知のとおりである。今回のブラジルW杯でそのことを痛いほど痛感した方々も多いのではなかろうか?杉下氏も指摘しているように様々なスポーツを客観的に、そして世界スタンダードで見るときにはブックメーカーのオッズほど参考になるものはない。このオッズを付け間違えれば、ブックメーカーが大きな損出を出してしまうので、この点については相当神経を尖らせているのは間違いない。
そういう意味でブックメーカーは、私たちにとって“手に届きそうな夢”を提供していると言えるだろう。数字がはじき出す超現実主義でありながら、しかしそのオッズが100%正しいとは言い切れない(やってみなけりゃわからない)スポーツの醍醐味が見事にマッチしている。おまけに賭けに勝てば財布も大きく膨らむことも。
ローリー・マキロイの話に戻そう。
ブックメーカーの“手に届きそうな夢”のもうひとつのエピソードをご紹介したい。7月の全英オープンで優勝した25歳のマキロイ以上に喜んだ人がいることをご存知だろうか?それは、父親のゲリー・マキロイさんだ。息子の優勝で手にしたお金は171,000ドル(約1,710万円)だ。
ゲリーさんは2004年に、母国イギリスの老舗ブックメーカー「Ladbrokes(ラドブロークス)」で、“当時15歳のローリーが10年以内に全英オープンで優勝する”という501倍のオッズに341ドル(約34,100円)を賭けて、10年目となる2014年に見事優勝して大金を手にしたのだ。何とも夢のある話ではないだろうか。
ブックメーカーの盛んなイギリスを中心とした欧州では、自分の子供が将来ビッグタイトルを手にするかどうかのオッズを提示するようにブックメーカーに依頼することは日常茶飯事だ。ラドブロークスの関係者によれば、家族やその友人からのリクエストは年に300にものぼるそうだ。
アマチュア時代(子供時代)からオッズの対象になるというのは、いかにもスポーツをいかに楽しむかという欧米色豊かな文化だと思ったのだが、これはこれで“手に届きそうな夢”としては歓迎してもいいのではないか。ブックメーカーの文化がまだ根付いていない日本においては「プロはおろかアマチュアを賭けの対象にするとはけしからん!」という声も聞こえてきそうだ。
ローリーの父ゲリーさんも、決してお金が欲しくてブックメーカーに賭けたのではないと思う。きっと、息子と一緒に夢を追いたかった。ただそれだけだったのではないか。自分の愛する家族、大好きなチームや選手にブックメーカーで「賭ける」という行為で一緒に夢を追い、自分の応援を形にしたいそれだけではないだろうか。
ちなみに、ローリー・マキロイと同じように将来ビッグイベントで勝つというオッズで、最も大金を得たのがF1レーサーのルイス・ハミルトン(イギリス)の家族とその友人だ。その額は213,000ドル(約2,130万円)だ。ハミルトンが9歳の時、「いつかF1で優勝し、世界No.1ドライバーになる」というオッズで、ハミルトンはその両方を成し遂げた。
そのハミルトンが出場するF1第12戦ベルギーGP(予選:23日、決勝:24日)の「優勝オッズ」が「10Bet」に発表されているので最後にご紹介しましょう。私らしい文章の終わり方でいいじゃないか。