ゲーマーがアスリートになる―。これだけ聞けば「何を言っているんだ?ゲーマーとアスリートは対極にいる存在じゃないか」とほとんどの方が首をかしげることだろう。しかし、実際に“ゲーマー=アスリート”という方程式がすでに世界では成り立っているから不思議である。
「eスポーツ(e-sports)」という言葉がある。この「eスポーツ」とはエレクトロニック・スポーツの略で、ビデオゲームによって勝敗を競い合うスポーツのことを言う。主にインターネットを通じて対戦ゲームで競い合うことから、スポーツの一つとしてゲーム大国・アメリカや韓国を中心に世界中で楽しまれている。
信じられないかもしれないが、プロのゲーマーも多数存在している。「eスポーツ」の大会やスポンサーからの協賛などで年収1億円以上を稼ぎ出すプロゲーマーもいるほどだ。お隣韓国では子供たちのあこがれの職業の上位に「プロゲーマー」が入っているなど、eスポーツはプロのアスリートのごとく稼ぎ出す立派なマーケットとして成り立っているのだ。
日本でもこの「eスポーツ」は徐々に広がりつつはあるものの、まだ確固たるマーケットとしては認知されていないのが現状だ。とはいえ、「eスポーツ」の将来性を見越して、プロのゲーマーを育成するための専門学校が開校され、日本国内で「eスポーツ」の大会が開催されるなど、世界的ゲームメイカーを多数かかえる「ゲーム開発国・日本」でも盛り上がりを見せるのにはもはや時間の問題となっている。
この「eスポーツ」向けにライオットゲームス社によって開発されたのが、2009年に登場した「League of Legends」(リーグ・オブ・レジェンド、LoL)だ。5人対5人のチーム戦で争うこのゲームは、相手を倒しながら相手の拠点を先に取った方が勝つという戦略的ゲームであり、1チーム5人の息のあった攻防がまるでスポーツを見ているかのようなのだ。このLoLは世界中に7000万人と言われるプレイヤーが存在する大人気の「eスポーツ」だ。
「eスポーツ」は現在、アメリカ、韓国に加えてヨーロッパや中国などを巻き込んで世界を席巻している勢いがある。昨年のLoLの世界大会は韓国のソウルで行われたが、その会場は何とソウルワールドカップスタジアム。あの2002年の日韓ワールドカップの開会式が行われたスタジアムだ。そのビッグな会場に約4万人の「eスポーツ」ファンが詰めかけ、会場に来られなかった世界中のファンたちはYouTubeなどの生中継を見たという。その数は3200万人と凄まじい人気だ。
スタジアムを訪れたファンはショーアップされた舞台でプレイヤーの「見せる」ゲームを見て、その卓越した技術にファンは固唾をのんで見守るのだ。PCのマウスとキーボードを駆使してレベルの高い試合を見せるプロゲーマー集団は、もはやプロスポーツ選手そのものなのだ。ゲーム先進国であるアメリカでは、「eスポーツ」に参加するプロゲーマーに専用のビザを発給するなど、プロゲーマーはもはや重要なプロスポーツ選手なのである。
また、「eスポーツ」が新たなスポーツとして認知されていることを感じるのは、スポーツベッティングなどでオッズを発表しているブックメーカー(スポーツブック)も近年、この「eスポーツ」の勝敗オッズを発表していることだ。
イギリスの老舗ブックメーカー「William Hill(ウィリアムヒル)」は、「eスポーツ」というジャンルを新たに設けて、今(2015年6月11日)ならば、LoLの試合ベッティングのオッズを発表している。まるでプロスポーツチームの試合のごとく、オッズメーカーがはじき出した数字が並んでいる。
【LoL試合ベッティングオッズ】
※オッズは11日午後6時現在
また、カリブ海に浮かぶオランダ領キュラソー島からのライセンスを得ている「Pinnacle Sports(ピナクルスポーツ)」も「eスポーツ」のオッズを発表している。オッズの高さを売りにしているピナクルは「eスポーツ」においてもやはり他のブックメーカー発表のオッズよりも高いオッズを意識しているようだ。日本でも人気の高いブックメーカーが「eスポーツ」のオッズを発表することは、今後の日本での人気の高まりにつながる可能性があるのではないだろうか。
近年急速に「eスポーツ」が広がっているアジアのブックメーカー「188BET」は、特に「eスポーツ」のベッティングに力を入れている。主要な「eスポーツ」の勝敗オッズはもちろんのこと、「ブックメーカーでは唯一ではないか」(188BET関係者)が語る「eスポーツ」のライブベッティングが用意されている。
ライブベッティングとは、スポーツの試合中に賭けることが出来るベットのことで、試合の流れや状況に応じて刻一刻とオッズが変化していくため、試合の流れを的確につかみながらベットする分析力と判断力が求められる。ビデオゲームとは言え、スポーツのように状況が時間と共に変化していく「eスポーツ」をさらに楽しむためのベッティングオプションとなっている。
日本における「eスポーツ」はどうなのだろうか?まだ、日本では「eスポーツ」自体の認知度が低く、またプロゲーマーとして「eスポーツ」で生活をしていける環境がまだ整っていないのが現状である。しかし、日本は任天堂やソニーといった家庭用ゲーム機で世界を席巻しているメーカーが数多く存在し、間違いなくゲーム大国なのだ。これらのメーカーが本腰を入れて「eスポーツ」に力を入れ、日本国内にいる有望なゲーマーに惜しみないスポンサードを行えば、間違いなく世界に張り合える最強チームは出来るはずだ。実際、アメリカや韓国ではコカコーラ社やサムスンが「eスポーツ」のチームをスポンサードして資金援助などをしているのも事実なのだ。
また、オンラインブックメーカーなどのスポーツベッティングで興味を持つことも「eスポーツ」の日本国内での市場を拡大する上で重要な役割を果たすだろう。ベッティングをすれば、多少なりともそのスポーツについて興味を持つことは間違いのないことだ。“見る側”から“する側”へと回ることが誰にでもできるのが「eスポーツ」の醍醐味なのではないだろうか。プロアスリートのような強靭な肉体、そして並外れた運動能力は基本的には必要としないのが「eスポーツ」だからだ。
スポーツとしての「eスポーツ」がオリンピックのように世界的な広がり、そして日本国内での盛り上がっていくことを今後も見守っていきたい。