世界最大の自転車大会、ツール・ド・フランス。フランスのみならず、世界中を熱狂の渦に巻き込む熱いバトルの季節が今年もやってきました。今年の幕開けは7月1日(土)。約3500kmを駆け抜け、7月23日(日)にパリの凱旋門でフィナーレを飾ります。
ツール・ド・フランス2017概要
夏季オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ、世界で3番目に大きなスポーツイベントであるツール・ド・フランス(以下、ツール)。2017年のスタート地点はなんとドイツの街、デュッセルドルフ。ライン川の東岸に位置する都市です。ドイツでのツール開幕はこれで4回目。1987年の西ベルリン以来30年ぶりとなります。
今大会最大の特徴はフランスの5大山脈すべてを網羅したコース設定となっていることです。まずはドイツ国境付近のヴォージュ山脈。そしてスイス国境付近、”ジュラシック”の語源ともなったジュラ山脈。それからスペイン国境付近のピレネー山脈を超えて、フランス南部の中央山塊へ。最後にイタリア国境のアルプス山脈を通過し、マルセイユでの個人タイムトライアルへと向かいます。まさに今回の大会は山あり谷ありの過酷なレースとなることでしょう。
2016年は困難を乗り越えたフルームが連覇を達成
フランス西部に位置する世界遺産、モンサンミッシェルからスタートした2016年大会を制したのはイギリス人のクリス・フルーム。2013年、2015年に続く3回目の優勝を果たしました。
第8ステージでは近づきすぎた観客を殴って罰金を受けるペナルティ。第12ステージではあふれかえる観衆によって停止したカメラバイクに激突して自転車を損傷。代替車が届くまで、トライアスロンのように自ら走るというトラブルを経験しました。それでも最後まで首位を守り切り、見事勝利を手中に収めています。
総合優勝オッズは3連覇がかかるフルームがトップに
【2017年ツール・ド・フランス優勝オッズ】
※オッズは26日午前8時現在
ブックメーカー「10Bet」が発表する2017年ツール総合優勝オッズにおいて、ツール3連覇、および4回目の優勝がかかるクリス・フルームがオッズ2.15倍でトップに挙げられました。
対抗馬筆頭はオーストラリア人のリッチー・ポートで2.75倍。4月に行われたツール・ド・ロマンディを制した選手です。この大会はツールや、同じくグランツールの一つジロ・デ・イタリア(以下、ジロ)の前哨戦として知られており、毎年多くの有力選手が参加しています。
3番手はコロンビア人の”山のスペシャリスト”ナイロ・キンタナ。オッズは6.75倍がつけられています。4番手の13.00倍に数少ないグランツール完全制覇達成者の1人アルベルト・コンタドール。5番手はデンマークのヤコブ・フグルサングで18.00倍、6番手には2015年ブエルタ総合優勝者のファビオ・アル(イタリア)が19.00倍で挙げられました。そして、2009年のブエルタ・ア・エスパーニャ(以下、ブエルタ)総合優勝者アレハンドロ・バルベルデには26.00倍のオッズが付けられています。
注目選手
フルームは新たな伝説に名を刻むか
記念すべき第100回大会となった2013年のツールではドーピング疑惑さえ起こるほどの圧勝を収めたフルーム(後に無実を証明)。2014年は優勝を逃すも、落車による手首の骨折が原因で、実力を十分に発揮したとは言えないものでした。2015年、2016年は連覇に成功し、まさに近年のツールを牛耳っている存在であるといえます。
彼の大きなアドバンテージはその出自。現在はイギリス国籍ですが、生まれはアフリカのケニア。そして南アフリカで育ちました。どちらも暑く乾燥した厳しい気候の地域。この環境下で、フルームは暑さに対する強さを手に入れました。炎天下で行われるツールにおいて、これは大きな武器となっています。
3連覇となれば、1991年~1995年に5連覇したミゲル・インドゥライン(スペイン)以来、イギリス人としては史上最多を更新することとなるフルーム。史上4人しかいないツール5回優勝者の仲間入りにもリーチがかかるだけに、大いに期待が寄せられるところです。フルームは新たな伝説をツールの歴史に刻み込むことができるでしょうか。
ポートはかつてのチームメイトに勝負を挑む
出身地にちなんでタスマニアン・デビルと呼ばれるポート。数々の大会で勝利を収めているものの、まだグランツール優勝歴はありません。2015年まではチーム・スカイに所属して、クリス・フルームや2012年ツール総合優勝者ブラッドリー・ウィギンスのアシストを務めていました。
2016年にはグランツールを自らつかむ為にBMC・レーシングに移籍。かつてアシストしたフルームに今回真っ向から勝負を挑むことになります。まさに戦国さながらの下克上に挑むポート。そのモチベーションは誰よりも高いことでしょう。新たな時代の幕開けとなるかもしれません。
キンタナ、グランツール完全制覇へ
山岳が連なるコロンビアに生まれ育ち、山岳レースで誰よりも実力を発揮する当代最高のクライマー、キンタナ。2014年にジロ、2016年にはブエルタを総合優勝、2017年には多くの山岳コースが設定されたジロで総合2位に入賞しています。
2015年にツールで総合2位となった際には、優勝したフルームをラルプ・デュエズで大きく突き放す激走を見せました。ラルプ・デュエズはそのあまりの急勾配から、ツールを代表する名所となっているところ。キンタナのクライマーとしての強さを象徴するものでした。
それから2年。27歳とアスリートしてのピークの年齢となり、いよいよグランツール完全制覇に挑みます。過去に6人しかいない伝説の1人へ。キンタナの名を不滅のものにする勝利をつかみ取ることが、今大会で彼に課せられた使命です。